マスクをしている
そのため気になるか否かくらいの息苦しさを感じている
咳が気になる
自分の咳も他人の咳にも不安と恐怖がある
緊張感に覆われている
他人に近づかぬようにとどこか張りつめた気持ちでいる
長い時間を一人でいる
話すことが減っていると気づき鬱々と空虚さを感じている
息と心はつながっている
深呼吸をしよう
安心できるところでいい
家の中でも周りに人がいないところでもいい
手を広げ
胸いっぱいに息を吸い込み
声を出しながら吐き出そう
そして心が少しだけゆるんだら
こんな今でも感じられる小さな幸せを見つけて
平穏や救いを願う祈りとともに
感謝の祈りをしよう
そう私は思う
小さな祈りのページ
詩 呪文ではなく
不憫な言葉たちがいる
自由、平等、正義
この言葉たちは異用されていると思えてならない
自由を盾にして他者を傷つける
平等を唱えて利己のみを考える
正義を振りかざして在りもしないはずの敵を作り攻撃する
誰とは言わないが
武器のようにこの言葉たちを操って
病のようにこの言葉たちに操られて
ゴツゴツとした塊をせっせと生産している人間はいやしないか
この言葉たちが生まれたとき
こんな使い方をするために生まれた訳ではなかったはずなのに
この言葉たちは
呪文ではなく祈りの言葉として生まれたはずなのに
しあわせのための祈り
作ろうと試みた
しかしながら作れるものではなかった
探そうと動き回った
しかしながら見つかるものではなかった
そもそもそれははじめから傍にあった
気づけていなかっただけであった
しあわせとは
作るものではなく
探すものではなく
祈りとともに
気づくものだった
誠実を求める祈り
誠実さが嘘をつかないことだというならば
少なくとも相手を陥れたり自分の保身のために
わたしは嘘をつかないでいたい
誠実さが私利私欲で物事を考えないことだというならば
少なくとも偽善と見栄の皮をかぶらせず
わたしは相手の気持ちを想像したい
誠実さが怠惰にならないことだというならば
少なくとも誰かや何かの所為にせず
わたしは一所懸命を増やしたい
不直の祈り
正直になるのはなんと難しいことか
思考に正直なれば
感情に不直となる
感情に正直なれば
思考に不直となる
何に正直であればよいのであろう
自分に正直に
かの人に正直に
皆に正直に
不思議なもので
何かに正直なれば
それ以外に不直となることの何と多いことか
ならば不直であってもよいのであろう
翻るならば
何かに不直ならば何かに正直とも言えようし
窓辺の祈り
目に映るあざやかな新緑の木々
その匂いを吸い込むことはない
ゴトゴトと吹きあたる木枯らし
目を細めて塵をさける必要はない
一面を灰青色に染める長い雨
手先がかじかみ冷えることはない
私はいつも窓辺に立っている
透明な薄い一枚の隔たりのあちらを
目と耳でしか感じぬ窓辺に立っている
陽の光が射し込む
温かな空気が窓辺の私を包む
窓辺にいながら目と耳以外で感じとれる
そのいざないは私に窓の鍵を開けさせる
笑顔の祈り
不安で笑顔を忘れているなら
不安がなくならなくても
安心っていう気持ちも持てることに気づこう
それは好きな人と話をして笑顔になって分かること
恐怖で笑顔を忘れているなら
恐怖がつきまとっていても
怯える気持ちからは離れられることに気づこう
それは他人を勇気づけその人が笑顔になって分かること
不安も恐怖も自分で大きくしてしまうもの
だから自分から小さくすることができる
笑顔を作ることがその方法
そんなことを祈っている
この祈りが届きますように
詩 私と世界
わたしの眼からしか見ていない
わたしの耳からしか聞いていない
わたしの肌からしか感じていない
それをわたしの頭でしか受けていない
わたしと世界とのつながりは
つねにそのようにある
つねにそのようにしかない
主観から逃れられないわたしは
主観を避けて客観を求めるのではなく
主観の広がりを求めて生きよう
わたしは私なのだから
静かな祈り
言葉をつくす
伝わると信じて
多くの言葉をもちいて
何度も何度も
そうして
言葉のむなしさに出会う
言葉に頼る危うさを知る
言葉が凶器になると理解する
言葉を捨てる
届くと信じて
一つも言葉をもちいず
遠くから遠くから
そうして
自分の弱さに出会う
自分に醜さがあると知る
自分が愚かなのだと理解する
言葉が残る
幾つかの大切な言葉だけ
「ありがとう」
「ごめんなさい」
そうして
ただ静かに穏やかに祈りたいと思う
ありがとうの祈り
どんなことも
恨めしく思えば恨めしくなり
憎らしく思えば憎らしくなり
いくらでも
自分以外のせいにできる
だから
ありがとうと口ずさもう
ありがとうを探してみよう
なぜなら
ありがとうは絶対に見つかるから
それは自分にも穏やかさをもたらすから
ありがとうは祈りだから
安心のための祈り
不安は不思議といつも横にいる
困ったものでいなくならない
横にいて
大人しいときもあれば
私をいじめるときもある
お前なんかいなくなれ!
けれどもいなくなったことがない
これじゃ安心は
いつまでたってもえられない
そう思いきや
不安が大人しいときは
安心だと思っているときもある
そうして気づく
不安もいなくなってしまっては
いなくなったことに不安になるのかも
そうして気づく
不安が横にいたとしても
安心を持てるものなのかもしれない
私に安心を与えてください
私は不安を取り除いてとは望みません
ただ安心を持てるようにしてください
春、ヤマの祈り
早春早朝
都会のヤマで
ドロボウ市でたむろする
今は使わぬ道具を見ては
東京タワーを建てし自分を
誇る口上なめらかに
見上げた空にはスカイツリー
時は過ぎしと歩き出す
右手の杖がカツカツ鳴る
ヤマの歌人は一歌詠む
白月を 刺したる串は
変わりしも
あの日とおなじ 市は止むまじ
晩春夕暮れ
都会のヤマで
ドロボウ市と同じ路地
顔ぶれ同じし行列は
炊き出し求めて集いしも
囁く鼻歌悲し気に
見上げた空から泪雨
腹を鳴かせて歩き出す
左手の杖がコツコツ鳴る
ヤマの俳人は一句詠む
落ち桜 踏みし足々 杖まじり
歌に祈り、句に祈り
祈りと共にヤマを生きる
無題の詩
いつもそばにいてくれる
いつも想っていてくれる
いつも見ていてくれる
いつも聞いてくれる
いつも微笑んでくれる
そんな人がいると言うのなら
それはあなたを大切に思ってくれている人
だから
あなたも大切に思う人にそうしよう
そんな人がいないと言うのなら
それは神さまがしてくれているから大丈夫
だから
あなたも大切に思う人にそうしよう
トンネルの祈り
私たちは人生において
度々トンネルに潜り込んでしまう
光が見えなくて
長い長いトンネルに
でも
出口のないトンネルはない
そして
トンネルは長くなんてならない
私たちの歩みがはやければ
トンネルは短く感じ
光は見えすぐに大きくなる
私たちが歩みを停めれば
出口へはいつまでも辿りつけず
終わりのない暗闇となる
トンネルの所為ではないのだ
わたしの歩みの所為なのだ
歩み続ける強さをお与えください
時の祈り
時とは
待つには遅く
過ぎ去りしははやい
時とは
辛苦には長く
喜楽には短い
同じく刻みすすむのに
感情によって違い
年齢によって違い
人が違えばそれによっても違う
そんな“時”という波を
私は唄うように祈りながら
ただひたすらに漕いでいく
ブナの祈り
ブナの木が水を求めて
ゆっくりと根を伸ばすように
私は成果を焦らずにいられるであろうか
タンポポが綿毛をつけて
多くの種を飛ばすように
私は成果を恐れずにいられるであろうか
なぜ私は速さと合理ばかりに縛られるのか
そんな狭い了見の私だということを
樹木や草花を通して
あなたが創ったすべてのものを通して
たえまなく教えてください
仄かな祈り
素直になれないから
仄かに感謝する
目立つのは苦手だから
仄かに手伝う
恥かしがり屋だから
仄かに笑う
彼の思いを想像できるから
仄かに寄り添う
世の理不尽に溜息するから
仄かに祈る
心に沸き立つものがありながら
いつも静かに覆い隠すのは
下手と軟弱と自信の無さを知りてこそ
それでも
仄かにでも
夜明けの祈り
夜の静寂を抜けて
新たな朝を迎えるがごとく
私たちは明かりを求める
夜明けに希望を重ねる
されど
暗夜にしか見えぬものもある
夜明けを迎え
失うものもある
星々の瞬き
夜道を照らす月明り
ただ夜明けを待つだけでなく
夜明けを恨めしいとも思えるならば
はじめて私は
求めし明かりを知るのであろう
風の祈り
花粉をはこび
渡り鳥を乗せ
季節の香りを届ける
そんな風は
命をつくり
出会いをもたらし
思い出をよみがえらせる
目に見えないものでありながら
かたちのないものでありながら
その存在を万物が知り
その恩恵を万物が得る
風を思うこころの如く
感謝の祈りを捧げよう
選択の祈り
生きているかぎり
選択することからは逃れられない
意識して選び
無意識のうちに選び
そうして小さき者が
今ここにいる
ときとして
選択から逃れようとしてみても
逃れようとすることさえも
選択だと気づかされる
それなのに
何故選択から逃れようなどと
そんな思いを抱くのか
傷つけることを
傷つくことを
怖がるだけの小さき者が
今ここにいる
選択とは何かを
祈り乞うなら
あなたは教えて下さるであろうか
赤心の祈り
いつわりのない心でありたいと
願いながらも
いつわるのである
いつわりのない笑顔を向けようと
誓いながらも
いつわるのである
かの人に誠実であらんとすることで
いつわる心を持つことがある
かの人に誠実にあらんとすることで
いつわりの笑顔を見せることがある
かの人が辛くなるかと思いて
かの人がいぶかしむかと思いて
そんな理由でいつわることは
赤心ではないのであろうか
それさえも見いだせない私の祈りを
どうぞお聞き下さい
声の前の祈り
失ったと思う
奪われたと思う
そうして何かを恨み
苛立ち
悲嘆し
欝々として
虚無と破滅に支配される
支配された耳と心に
聴こえ届かせる声とは
どんな音色で
どんな含意の声であろうか
失っていないもの
残っているもの
それらに気づくための声
もともと持っていない
だから失わず奪われない
そのことに気づくための声
そんな声はあるのだろうか
そんな声はないのであろう
だから声だけに頼らず
声にならない幾多のものを
忘れぬ心を
お与えください
春花の祈り
春花の美しさ
それは小さくて
淡くて儚いがゆえでしょうか
うつろい往く「時」をまとわせて
それはあたかも
うつろい往く私のこころと重なるからでしょうか
とどまらぬ春花の散りゆくさまに
沈むこころが合わさるのです
されど
花が散るが摂理なら
こころもうつろわぬは不自然なこと
うつろい往く中で
幸いかな伴に旅する人とものを
与えてくださるあなたが
私の沈むこころを
幸いなるものとしてくださる
うつろい往くのを受け入れさせてくれるのです
今日の祈り
悩みも辛さも苦しさも
自分が生み出しているだけのもの
そして
それは生きているからこそ感じるもの
昨日も感じたように
今日も明日も感じるのであろう
なくすことが出来ぬものなら
なくそうと足掻いても愚
それらを纏う日々の中に
ささやかな喜びや嬉しさや楽しさを
自分が生み出して
膨らますことが出来るなら
膨らまそうと気張りたいのです
解放の祈り
屈辱を感じるのは
しがみついた自負があるから
恨みを持つのは
捨てられない過去があるから
妬みを抱くのは
とらわれた劣等感があるから
それらすべては
固定した心がつくる
それらすべてに
所有を望む心がつながる
宵を迎えて固定を眠らせ
朝を迎えて所有を忘れる
そんな自由な心をお与えください
和らぎの詩
悲しい時に悲しいと言う
つらい時につらいと言う
淋しい時に淋しいと言う
それは自分の苦しみを知ってほしいと言うこと
それはとても大切なことなのであろう
自分が和らぐかもしれない
でも出来ればそれらをのり越えた時に
笑って「それでも人生はまんざらでもない」と言う
それは他人の苦しみを少しは分かると言うこと
それはきっと大切なことなのであろう
誰かが和らぐかもしれない
仮庵の祈り
もしもわたしにできるのならば
"かりいほ"の役目をお与えください
疲れたときに休め、
空腹のときに食せ、
悲嘆のときに篭れ、
悩みのときに問え、
孤独のときに話せ、
病いのときに癒せる
そんな"かりいほ"に
できるのならば
ならせてください
持たぬ人に持ちえるまでの
見失った人に見つけえるまでの
そんな"かりいほ"に
できるのならば
ならせてください
わたりの祈り
今日と明日の間に
はっきりとした区切りはないのであろう
昨日と今日にも
明日と明後日にも
ないのであろう
それでもわたしたちは
昨日をおわりとし
今日からはじめる
今日をおわりとし
明日にのぞむ
そうして次々と転生をつくり
辛苦を忘れ置き
喜楽を糧とする
それでも綿々と
つながりゆく毎日を
悪しとせず良しとするは
観想たる祈りと活動たる祈り
日々をわたる祈りのうちに
わたしの祈り
わたしは
その花の美しさを
語り伝えることはできても
その花が与えてくれる感動を
同じように
携えることはできない
わたしは
その木の強さを
語り伝えることはできても
その木が風雪雷雨に耐える様を
同じように
体現することはできない
花になれるならばと
願うこともある
木になれるならばと
悔しがることもある
されどわたしは
花にも木にもなれはしない
なればこそ
花を愛(め)で
木を慈しみ
わたしはわたしのままでいよう
何も持たないわたしに
愛と慈しみを持たせてください
流動(ながれうごき)の詩
不寛容よりも寛容が良いと知っている
暴力による争いよりも対話による一致が良いことを知っている
嫌悪を抱くよりも友愛を携える方が良いと知っている
偏見と高慢よりも公平と謙虚が良いことを知っている
疑念と妬みよりも信頼と誠実が良いと知っている
つまりは
betterなものはどちらかと問われるならば選ぶことができる
ただbetterはbestでないことも知っている
そしてbetterにしようとするときには
概して自分がworseに立っているものだということも知っている
だからそこに答えが出ないことも知っている
だから固定せずに考え悩み続けることしかできないことも知っている
邂逅の祈り
思いがけなく
出会ったり
再会したり
そんなあなたのわざは
私の心を豊かにしてくれる
人とのそれも
出来事とのそれも
あなたはいつも
のぞむかたちとは別のかたちで
私に与えてくださる
知りえぬ私は
ときを過ぎてより
あなたのこころにふれる
知りえぬ私は
ときを過ぎてなお
あなたのこころにふれえず
そんな私を待ってくださる
そんな私を赦してくださる
私もあなたのするとおり
私のまわりに出来ますように
無知の祈り
わたしの手の使い方を知らせてください
壊すだけではなく作るための使い方を
わたしの目や口の使い方を知らせてください
見て話すだけではなく笑顔のための使い方を
わたしの足の使い方を知らせてください
歩みすすむだけではなく支え立ち上がる使い方を
わたしには上手に使えないことばかり
備えてくださったものたちを
浅はかなる私の考で使うばかり
操れるようにとは望むべくもなく
ただ少しでも役立てられれば
こんな願いも私のおごりならば
せめてあなたの意に背かぬ使い方を知らせてください
無為なる祈り
彼はここに居ればよいと言う
どこにも行かず
だれとも会わず
なににもかかわらず
そうしていれば
苦しまず
悲しまず
裏切られず
傷つかないと
だけどここに居るだけでは
埋まらず
変わらず
充ちず
望めない
彼はここに居たいのか
そうではない
彼は何もしたくないのか
そうではない
居る他になく
しない他にないだけなのだと
しかし
彼の無為なる祈りはある
このように誰かに話す彼は
すでに誰ぞに会っていて
何かにかかわり始めている
そして
そんな無為なる祈りは次を生むのであろう
日々の祈り
悩みや辛さ
苦しさや悲しさ
出来事としてあるように思っていた
誰かにそれを投げつけられていると思っていた
よく考えると違っていた
出来事ではなく思考であった
外からくるのではなく
自分が生み出しているものだった
何よりも生きているからこそ感じるものであった
明日も感じるのであろう
明後日も感じるのであろう
感じる毎日の中で
つつましき喜びと
ささやかな楽しさを
生み出せますように
冬、ヤマの祈り
冬の深夜
都会の山谷(ヤマ)で
路上に布団を敷いて縮こまる
寒く凍てついた空気を
吐息が白く揺らめかせる
温かい缶コーヒーを渡すとき
その手の冷たさが痛々しい
澄んだ空気が月を輝かす
彼は詩人か文人か
輝くならば暖も与えよと
月に一言もの申す
冬の明け方
都会の山谷(ヤマ)で
煙草が欲しいと手延べで歩み来る
寒く凍てついた空気を
トラックの風が騒がせる
煙草とボッケのカイロを渡すとき
ライターを囲む手が震えている
熱のない太陽が差し込む
彼は歌人か俳人か
陽より火が恋しいと
太陽に一言もの申す
神よ
あなたが創りし星々の
その熱を願わぬだけの温もりを
路上の人々に届かせ給え
無題の詩
失敗ばかりしている
間違えてばかりいる
妬んでばかりいる
誤魔化してばかりいる
嘘ついてばかりいる
天狗になってばかりいる
そんなことばかりの自分に気づく
だから自らを批判する
私は失敗し
間違え
妬み
誤魔化し
嘘をつき
天狗になっているではないかと
自らへの批判の先に何を得るであろう
それが分からずとも
自らへの批判をやめることはせずにいこう
せめて自らを少しくらい認ることのできる者になるために
石ころの祈り
あなたは自分を石ころにたとえる
誰の目にもとまらず
その存在を認めてもらえずにいると
何の役にもたたず
どの道にあっても掃かれるだけだと
石ころを作りたまうた方はあなたを何にたとえよう
大地にあっては大地をつくり
流れにあっては水を浄化させ
手にあっては時を待つ友となる
やはりそんな石ころとたとえよう
わたしは石ころを何にたとえよう
風雨に耐えながら丸みを帯び
助力を願うときにはそこにいる
やはりそんなあなたにたとえよう
“石”は意思であり
“ころ”は心である
石ころを作りたまうた方とわたしはそれを知る
あなたは石ころを嘆かないで
小心者の祈り
小心者が故に不安でならない
しかしながら
その不安が
慎重さをもたらしてくれる
小心者が故に怖くてならない
しかしながら
その怖さが
備えを怠らぬようにしてくれる
そうして小心者の私は
いつしか大心となり
過信をもって過ちを起こす
再びあなたによって気づかされる
その気づきは
小心を恥じるものではなく
小心者であることの大切さを
心に刻ませる
わたしを小さい者としてください
弱き私の祈り
失ったと嘆いたことが幾度もありました
あなたはその都度
所有などなく、必要なものは常にあることを教えてくださいました
誤ったと落ち込むことが幾度もありました
あなたはその都度
気づきを得、謙虚であることの大切さを教えてくださいました
人を傷つけたと後悔することが幾度もありました
あなたはその都度
だからこそ優しく、愛を持つことを教えてくださいました
いまだ嘆き、落ち込み、後悔します
あなたはその都度
その繰り返しの中で生きることの大切さも教えてくださいました
今日もまた教えてください
明日もまた教えてください
そうして隣にいる人にもあるその繰り返しを
あなたの意に背き私が責めぬよう見守ってください
弱き私を見守ってください
思いやりの祈り
自分たちの主張で
誰かを傷つけて
傷つけられた誰かの暴走を理由に
自分たちの主張こそが正しいと頑なになる
それが自由だと定義する
そんな“私”がふえている
権利と正義をたずさえて
それらがすべてにまさると思い込み
思いやりを置き忘れ
自分も他人も説得しようとする
それが理だと定義する
そんな“私”がふえている
“私”の自由が
誰かを傷つけるものとしない
そんな心を祈り願う
“私”の理が
思いやりを置き去りにしない
そんな心を祈り願う
呼ばずの祈り
あの“悪しきもの”は誰が呼んだのか
突然現れた訳ではない
私たちが気づかぬうちに
平凡で正しいと思われし選択を
積み重ねて
積み重ねて
隣人の理と義の主張に
納得して
納得して
悪を生まぬためにと考えた先に
私たちが呼んだのであろう
そうしてその無作為なる繰り返しの中で
呼んだことに気づかず
“悪しきもの”は突然現れたと
私たちには落ち度はないと
“悪しきもの”への鉄槌を後押しする
あの“悪しきもの”は誰がそう呼んだのか
見知らぬ誰かが呼びはじめた訳ではない
私たちが呼びはじめたのである
何故悪しくあるかも知らず
攻め立てて
攻め立てて
同じ括りの枠を決めて
偏り見て
偏り見て
新たな溝と懐疑をつのらせて
私たちが呼んだのであろう
そうしてその無作為なる繰り返しの中で
“悪しきもの”は突然現れたと
私たちには落ち度はないと
“悪しきもの”への鉄槌を後押しする
私たちの平凡とも言える毎日に
そんな陥る穴があることを
忘れぬ力をお与えください
鏡の詩
己を見ようとするならば
鏡で見るしか術がない
顔も後姿も全身も
鏡がなくては見えやしない
しかも何故だか不思議にも
鏡が映すその姿を
時には己と疑わず
時には誰ぞと目を擦る
鏡がなくては己も見えず
鏡を見てさえ己が分からず
知りし己はその程度と
鏡に映った己が笑う
言葉にならない祈り
どんなに言葉を発しても
言いあらわせないのです
どんなに言葉を探しても
言いあてられないのです
どんなに言葉を並べても
言い尽くせないのです
わたしのこころにある
誓いや感謝
願いや叫び
疑問や不安
すべての祈りは言葉にしきれないのです
だから言葉を使わずに祈ります
そしてこの祈りと同じく
するにたるべきことならば
言葉にできずとも
おこなえますように
壊れものの詩
人は壊れもの
こころは壊れもの
関係は壊れもの
ゆがんだり
砕けたり
失われたり
支障をきたしたり
崩れたり
乱れたり
そう、壊れるものなんだ
だから壊れないために
だから壊れたときのために
傍らにはもう一つ二つ…と
”人”がいて
”こころ”があって
”関係”がある
壊れもののためにあるものは
やっぱり同じ壊れものたちなんだ
感じ方の祈り
悩みも
辛さも
苦しさも
そして悲しさも
自分がそのように感じ
自分で生み出しているだけのもの
生み出すならば
これからも感じるのであろう
自分だけがと思わぬ心を持てますように
怒りも
落胆も
憤りも
自分がそのように感じ
自分で生み出しているだけのもの
生み出すならば
これからも感じるのであろう
他人の所為だとしない心を持てますように
よろこびも
たのしさも
うれしさも
自分がそのように感じ
自分で生み出しているもの
生み出すならば
これからも感じるであろう
多くのことをそう感じられる心を持てますように
ヤマ(山谷)の祈り
家がないことと家があること
食べられぬことと食べられること
風呂に入れぬことと風呂に入れること
金がないことと金があること
それは、幸、不幸を分けるものではない
それは、優、劣を分けるものではない
それは、与、貰を分けるものではない
それは、私の心の貧富を分けるものである
可哀相と思う心の貧しさ
蔑んで見る心の貧しさ
誇りたいと思う心の貧しさ
違いを探す心の貧しさ
分かち合える心の豊かさ
自分に置き換えられる心の豊かさ
無知を知る心の豊かさ
違いを受け入れられる心の豊かさ
貧しき心に気づかせてください
富める心に気づかせてください
我観の祈り
わたしは分かっているだろうか
わたしが説いていることの偏りを
わたしは気づいているだろうか
わたしが考えていることの見落としを
わたしは感じているだろうか
わたしが信じていることの思い込みを
わたしは認めているだろうか
わたしが論じていることの未熟さを
わたしは悟っているだろうか
わたしが望んでいることの勝手さを
一日にあっては戒めて
別日にあっては忘失し
常に思いとどめることさえできない
それゆえ我観の至らなさを
せめて覚えさせたまえ
つもりの祈り
わたしは知っていると思っていた
知識を得て
思慮に耽け
問答を交わし
それで知っていると思っていた
わたしは知ってはいなかった
知識は知恵に至らず
思慮は実感に至らず
問答は悟達に至らず
つまり知ってはいなかった
“知ったつもり”
そのことを知った
くり返しくり返し
知ったつもりになる私を
飽きもせずに気づかせてください
そして知りえることなどないことを
忘れぬように致します
土の詩
美しき花
それは土に咲いている
豊穣なる稲
それは土から伸びている
清冷なる湧水
それは土から湧いている
夏作る蝉声
それは土に中にて育つ
我々の目、耳、口は
土より出しものらによって福をえる
しかしいつしか我々は
土上にコンクリートを敷き詰めて
みずから土を遠ざけた
土を感じぬ毎日は
生を感じぬ毎日に
土から生まれた我々は
帰りし土を求め彷徨う
きづ(ず)きの祈り
何故こうも他人の過ちや悪しきを拾うのか
せっせと拾っては
誰ぞに見せてみたり
己でも拾ったことをほくそ笑んだり
何故こうも己の過ちや悪しきを埋めるのか
せっせと埋めては
誰ぞの目を気にしたり
己でも埋めたところを忘却したり
何故こうも気づかないのか
それが如何に悲しいことなのか
いいや気づいているのであろう
さればこそ
かくのように思い悩む
築く力を祈り求める
“気づき”の煉瓦を築きあげる力を祈り求める
せっせと築いては
誰ぞの目にもとまり
己でも築いた“気づき”に導かれよう
歩みの祈り
優しいに越したことはないが
優しければ良いというものでもない
強いに越したことはないが
強ければ良いというものでもない
聡いに越したことはないが
聡ければ良いというものでもない
されど優しく
されど強く
されど聡くあらんと歩み祈る
厳しさを己に向けてこそ優しさと知りつつ
その優しさをもととし
弱さこそが強さと知りつつ
その強さを糧とし
愚かしく思えるものが聡さと知りつつ
その聡さを悟らんとし
されば優しく
されば強く
されば聡くあらんと歩み祈る
援(たすけ)の祈り
正しいと言い切ることが
寛容を捨てていることを
わるいと言い切ることが
想像を捨てていることを
いつも忘れぬ強さを与えてください
頑なであることに気づき
前出をなぞっているだけの
無考に気づき
色だけにたよらぬ目を
音だけにたよらぬ耳を
形だけにたよらぬ手を
持つことができますように