友愛会の支援者への手紙 58

 

行き場所がない人たち

彼方此方の講演や講義では、このところ必ずといってよいほど伝える話であるが、活字にしたことがなかったので「友愛会の支援者への手紙」に記しておこうと思う。(注:何らかの犯罪の被害にあわれた方やその近しい方には不快に思われる方もおられる内容かもしれません)
ここ十年ほどの友愛会への支援依頼は「刑期明け」や「保護観察」などの刑務所から出所してきた方たちが多い。
友愛会の利用者像というのは、その時勢々々においてもっとも行き場所がない人たちが増える。25年前の活動をはじめた頃は、高齢路上生活者が多かった。介護保険制度などの高齢福祉施策の充実と共に、高齢者の行き場所は増え、友愛会への依頼は障がい者が多くなる。障がい者の中でも制度整備が進んだ順に、身体障がい→知的発達障がい→精神障がいの流れで依頼の中心が移っていった。そういった潮流とは別に、青少年・児童や妊産婦といった利用者の依頼は変わらずいつも一定数ある。この国の福祉施策の領域を考えると、高齢福祉、障がい福祉(身体・知的発達・精神)、児童福祉のそれぞれの整備・充実とともに利用者像が変化してきたとも言える。
それぞれの福祉領域の潮流を経て、その次にやってきた利用者像は“重複ケース”であった。例えば「高齢で統合失調症の方」といったことである。65歳を超えて介護保険の対象となると、それまで(精神)障がい福祉でフォローされてきた人は高齢福祉領域への移動を余儀なくされる。しかし、例えば介護保険上のグループホームなどに居を移そうとすると、「統合失調症の方への対応が出来ないので…」といった理由で断られる。やむなく障がい福祉の施設などで居を探すと「65歳以上の方は介護保険サービスの利用が優先なのでこちらには入れません」と言われる。“縦割り”行政の弊害ともいえるが、奇しくもそれぞれの福祉領域の整備・充実によって領域を跨ぐ重複ケースの行き場がなくなったのである。
“重複ケース”が今後長く続く利用者像の中心だと思ったのが十数年前であったが、その次の潮流がまだあった。それが冒頭で書いた「刑期明け」「保護観察」といった“刑余者”である。刑余者、つまり「かつて刑罰を受けたことがある人・前科者」が今もっとも行き場所がない人たちということである。
さて、少し想像を巡らせてほしい。
たとえば、あなたがコンビニでバイトをしているとする。仕事をしていると、店長が中年の男性を連れてきて、「紹介します。今度新しく入ったバイトのAさんです。慣れてきたら深夜勤務もしてくれるというのでバイトリーダーの君からも色々教えてあげてください」と言われた。その後少したって店長に手招きで呼ばれて行くと、「実はAさん、窃盗で捕まったことがあるらしいんだけど、他のバイトの人たちには言わないでね」と耳打ちされた。
さて、あなたならどう思いどうするであろうか。
「そんな人を雇ったらダメですよ」「深夜勤務なんてレジからお金を取られますよ」と店長に言うであろうか。
もう一つ、こんな状況も想像してみてほしい。
あなたがアパートに住んでいて隣の部屋が空いているとする。ある日、家に帰ってくると不動産の担当者と大家さんが隣の部屋の鍵を開けて中を見ていた。会釈をすると大家さんが声をかけてきて、「来週から隣の部屋に新しい人が入居するのでよろしくお願いします」と言う。何の気なしに「若い人ですか~?」と返すと、「若い人ではあるんだけど、不動産屋の人がどこかで見た顔だと思って調べたら、以前、放火事件を起こして新聞に載ったことがあるらしいのよ。本人にそのことを訊いたら、もうしませんって言うから大丈夫だと思うけど」と言った。
さて、あなたならどう思いどうするであろうか。
「そんな人を隣の部屋に入れないで下さいよ」「そんな言葉を信じるんですか」と言うであろうか。もしくは自分がアパートを出て行ったりするであろうか。
どちらのたとえ話もそんな言動に出る人は少なくないであろう。少なくないどころか、ほとんどの人がそうするのかもしれない。日本中のほとんどの人がそうするということは、刑余者の人たちは仕事も住処も得られないということになる。
その刑余者が自分で犯したことなのだから自業自得で当然の報いだと言う人もいるであろう。また、怖いと思うのはどうしようもないと言う人もいるであろう。そういう意見を真っ向から否定しきれないが、日本中の人がそう思うなら、彼ら刑余者はどうやって生きていけばよいのであろうか。どうやり直せばよいのであろうか。家も仕事も得られない状況で困り果て、再犯することになってしまうかもしれない。そうすると世間は「やっぱりまたやったよ。だからそういう奴は信じられないんだよ」と言い放つのであろうか。でも、そうさせたのは誰であろうか…。
ここ十年来、友愛会の利用依頼は刑余者が一番多い状況が変わらずつづいている…。

2025年01月12日