山谷地区には月極貸ロッカーが多い。
日雇労働者が多く住む街「寄せ場」であったこの地域には欠かせないものである。
ドヤ(簡易旅館)の狭い部屋には置ききれないものや貴重品、路上生活をしていて持ち歩けないものなどを月極の貸ロッカーに入れる。
9月13日に放映されたNHKの番組「ドキュメント72時間」で、大阪の釜ヶ崎(あいりん地区)の月極貸ロッカー密着ドキュメントというのがあった。山谷地区と同じ「寄せ場」、「日雇労働者市場」である釜ヶ崎の貸ロッカーから見える人間模様は、やはり山谷地区のそれとオーバーラップしていた。
長いこと路上生活を続けていた友人も貸ロッカーを使っていた。
山谷地区に来る前、彼は料理人だった。
色々な理由があって包丁を握れなくなってしまった彼は、山谷地区に来て日雇いの土方をしていた。隅田川沿いに建てていたブルーシートの家(ブルーテント)に住んでいた彼は、貸ロッカーに入れてあった“包丁”の手入れだけは怠ったことがなかった。
いつだったか尋ねたことがある。
「やっぱり料理の世界に戻りたいの?」
「戻れないさ。でも癖みたいなもんだよ、手入れしとかなくちゃ気になってな…」
一月200~300円の山谷地区の貸ロッカーには、彼らの思い出や宝物、あるいは彼らの全てが入っているのである。