友愛会の支援者への手紙 49

 

いつものように

病院から帰ってきた彼は、いつものように電話で呼んだ。
「ちょっと歩くのが辛いから買い物お願いできるかなぁ?」
電話口で買ってきてほしいものを聞き、買い物を済ませてから訪ねる。
いつものように申し訳なさそうに頭を下げて、そのままあれこれ話しはじめる。
一人暮らしで訪ねてくる人もほとんどいない。
そしてこれまたいつものように血液検査のデータを見てほしいポケットから出す。
「何か変わったことある?先生は何も言ってなかったけど…」
目に飛び込んだのは異常な高値を示す腫瘍マーカーのデータ。
「こう体調が悪いのに何にも悪いところがないってんだから適当な医者だよ(笑)」
「何とも言えないけど気になるデータがあるよ。先生が何にも言わないなら何とも言えないけどね」
表情を変えぬように努めているのに彼は気づいたであろうか。
しばらくして、彼の受診日にいつものように電話がなる。
「わるい。今日も買い物お願いしていいかな」
いつものように買い物をしてから訪ねる。
いつものように申し訳なさそうに頭を下げて、そのままあれこれ話しはじめる。
そしてため息をついてから、
「大きな病院に行って検査してこいって言われたよ」と笑いながらつぶやいた。
「そうかぁ…。検査日決まったら車で送るよ。あの病院遠いからね」
「わるいね」
数秒の沈黙がつつむ。
「子どもいたらよかったのかなぁって思うこともあったんだ」と不意に彼が言う。
「それは初耳だね。そうなんだ」
本当に初めて聞いた。
「まぁ、もしかしたら子どもより面倒見のいい奴がいるからいいけどね(笑)」
その後、彼は癌を告知された。
いつものように電話がなる。
いつものように買い物をしてから訪ねる。
部屋のあれこれをそれとなく整理している様子がうかがえる。
痩せた細ってた彼にはこの寒さは厳しいであろう。
いつものようにホッカイロも持っていく。
いつものように…。

2020年01月10日