友愛会の支援者への手紙 45
夜の車椅子
20時を過ぎた頃、事務所の玄関を叩く音がする。
開けてみると車椅子に乗ったおじいさんがいる。
車椅子の後ろから汗だくになった男性が声をかけてくる。
「何とかなりませんかね?」
後ろの男性はある福祉事務所のケースワーカーであった。
この日の午前中、病院から退院して入所予定だった施設に行ったのだが、門前払いを受けたという。
それからこの時間まで泊まれる場所を探し続けて来たのである。
「もうどこにも行き場所がなくて…」
よくよく話を聞くと、数年前に下肢静脈血栓のため右足を切断したとのこと。
そして、手術後入所したサ高住(サービス付高齢者住宅)があまり“よろしくない所”だったようである。
ここでは詳しくは書かないが、結論としては貯蓄がなくなってしまい退所する破目に。
その後、幾つかの病院を転々としていたのだが、それでも行き場所がなくなった。
ケースワーカーは、苦し紛れに「まったくもって問題のない人」と言って入所話を取りつけていた施設に連れて行ったが、案の定と言えようか、結果は…。
このケースワーカーも困ったものだが、それ以前に世知辛さを感じずにはいられない。
何より、夜に、しかも片足の車椅子の高齢者が泊まれる場所など探しようもないのであろうから、空いていた部屋はバリアフリーとは言えないなれど、あずかることにした。
ケースワーカーが帰った後、車椅子のおじいさんは堰を切ったように口を開く。
「何でこんな目にあわねばならぬのか…」
それでもひとしきり話した後、疲れていたのであろう深い眠りについた。
さて、まずはこのおじいさんの今後を本人と相談しながらゆっくり考えていかねばならないなだが、それにつけても何より、こんな経験の中で培ってしまった「人への不信感」が最初の壁になるであろう。