友愛会の支援者への手紙 40
後悔の数だけ
「すみません。以前、○○という人がこちらでお世話になっていませんでしたか?」
オドオドと申し訳なさそうに友愛会本部の事務所の扉を開けた男女が言う。
○○さん…、覚えのある名前である。
10年以上前に友愛会を利用していた方である。
どういった関係の方かを確認すると、娘さんと息子さんであった。
「はい、ずいぶん前でしたが一年間ほどかかわっておりましたよ」
玄関先で、顔を見合わせてホッとしながら涙ぐむ姉弟に中に入るように促した。
改めて話を聴くと、つい先日お父さん(○○さん)が亡くなったという連絡が役所からあったとのこと。
○○さんは、30年前に妻と別れ、来所した姉弟を含む5人の子どもたちを残し出ていったとのこと。
子どもたちにとってはわるい父親ではなく、母と別れた後もそれなりに暮らしているものだと思っていたようだ。
それが役所からの他界の連絡を受けて色々確認したら、年金と生活保護での暮らし、そして単身であって病院でひっそりと亡くなったと言う。
姉弟は衝撃を受けるとともに後悔に襲われた。
40代後半で出て行った父、それなりの生活をしていたと思い込んでいた。
もしかしたら新しい家庭でも築いているのかもしれない…、しかし、一人で貧しく生活していたと知ったのである。
足跡をたどると友愛会の名前が出てきて、居ても立ってもいられず姉弟は上京して来たと言う。
○○さんは友愛会に来る前、職を失って路上生活となっていた。
そんな状況に耐えかねて自殺を図ったが一命を取り留めて、病院退院に合わせて友愛会に来たのだった。
真相を聴きたがる姉弟に、知る限りのことを包み隠さず伝えた。
姉は泣いていた。
弟はうなだれていた。
それでも家を出て行った後のことが少しでも分かってよかったと言う。
私は続けて話した。
「○○さんは元気になって友愛会を出て行きましたよ。困ったことがあったらまた連絡するけど、そうではなかったら連絡しないから『便りがないのは良い便り』だと思っていてくれってね…」
姉弟は、「これからお骨をいただきに行くんです」と。
そして力強く言った。
「供養します…」と。
いつも思う、人間は後悔するように出来ているのであろうと。
その後悔の数だけ優しくなれるのであろうと。
姉弟は手を握り合って帰っていった。