友愛会の支援者への手紙 36
ゆるやかな支え合い
友愛ホームには「個室」ではない部屋が数部屋ある。
目線以上の壁で仕切られているけど、しっかりと閉ざされてはいない部屋。
友愛会のすべての宿泊所の中で唯一、友愛ホームの一階だけがそんな部屋になっている。
利用する人の住環境を考えて他はすべて「個室」にしているのに何故なのかと言うと、「個室が駄目な人」もいるからである。
周りの人の声や気配が感じられる、調理場から料理の匂いが香り、トントントンと包丁で野菜を切る音が遠くに聴こえる…。
そんな“耳鼻を邪魔しない気配”が安心と心地よさをもたらすこともあるのである。
わたしはこれを「ゆるやかな支え合い」だと思っている。
はっきりと意思を持って語りかけたり行動したりしている訳ではなくとも、その「存在」が相手に伝わる距離感。
「今日の晩飯はカレーなんだね。この匂い嗅ぐとお腹が鳴るよ」
そんな何気ない言葉は、“匂い”というゆるやかな接点からつながるが故に生まれている。
「横の部屋の人、夜中にコンコン咳してたから心配なんだ」
そんな気づかいもゆるやかな支えとなる。
それが自分でも気づかぬうちに、安心と心地のよさを作っていく。
兎角、私たちは『これが良いに決まっている』という価値観を持ちがちである。
「プライバシーを守るには個室が良い」
確かにそうではあるが、その選択肢しかないのは如何なものであろう。
もし、その人が社会と疎遠となっていて、路上生活を続けてきて、不信感と孤独感の中で暮らしてきたならば…、プライバシーを守るためという理由がプライオリティを持たぬこともあるのではないか。
どれが正しい、どれが良いではなく、どれだけ選択肢を作れるかが大切であろう。
そんな考え方の先に、ゆるやかな支え合いが生まれると思うのである。
個室ではない部屋は、今後も選択肢として残していこうと思う。