山谷と自転車


山谷地区は自転車の数が半端なく多いところである。
理由はいくつかある。
まず、狭い部屋のドヤ(簡易旅館)が所狭しと建っているので、小さい建物なのにそこに住んでいる人が多いということ。ドヤの前には自転車が並ぶのである。
また、酔っぱらった日雇労働者やちょっと困った山谷のおじさんたちが、あちこちから勝手に乗ってきた自転車を放置しているのも要因であろう。
そしてもう一つの理由は、この地区の商店や住宅の前に家主が自転車を並べるからである。何故かというと、軒先や店先で野宿されるのを防ぐためである。
山谷地区のある商店街は、夜になるとガレージを閉めた商店毎に違う様相を見せる。
路上生活者が寝床を作っているところは、家主との間に“紳士協定”のようなものが存在している。
それは、①その人以外の人はそこに寝かさないこと、②開店前には掃除をして荷物なども邪魔にならないところにまとめておくこと、といった内容である。
逆に路上生活者を寝かせたくない家主は、自転車を並べて寝る場所をなくしてしまうのである。
そんな自転車が多い山谷地区では、自転車のカゴにも不思議なことが起こる。
以前、友愛会の訪問看護師さんの自転車のカゴには「たくあん」が入っていた。
多分、路上生活のおじさんが、炊き出しでもらった弁当の嫌いな「たくあん」をゴミ箱代わりにして入れたのであろう。
どの地域でも、置いてある自転車のカゴは、紙くずなどのゴミを入れられることが多々あると思うが、山谷地区のそれは理解不能なものが入っていることがあるのである。
私の経験では、かじった痕のある生のニンジンや、賞味期限が数年過ぎた缶詰なんかもあった。
そればかりか、人糞が入っていたこともある(^_^;)。使った後のある成人用のオムツもあった(T_T)。
そんな中でも一番驚いたのは、遺影と思われる額に入った写真と線香。
10年以上前のことだが、これには頭を悩ましたのを覚えている。
何故…?どんな思いで…?未だ分からないままである。
山谷地区の自転車のカゴの中は、山谷七不思議のひとつである。

2018年02月19日